エレクトリック・ガール!
帯文より
【記念すべきデビュー作、恋愛小説大賞新人賞受賞】
「先輩、お命頂戴致します……!」
染谷茜、16歳。女嫌いで有名な弓道部の直井先輩にベタ惚れ。清々しいほどに冷たく突き放されてもめげずに先輩のストーカー……じゃなくて。先輩の推し活をしていたある日の帰り道、直井先輩の大きな秘密を知ってしまって——!?学生時代に誰もが一度は経験したであろう「友達付き合い」と「恋愛」の悩みをコミカルに描いた、甘酸っぱくも痛快なストーリー。大好きなのに、素直になれない!バッチバチの静電気を帯びたアブナイ関係は、一体何ボルト!?
作品内容(本文抜粋)
分厚い扉の隙間から差し込んだ夕日が、薄暗い室内に真っすぐに伸びている。
グラウンドから聞こえてきていた運動部の賑やかな声もいつのまにか無くなり、学校全体が静寂に包まれる時間帯。
燃えるように赤い空が次第に紫を多く含んでいく——なんだか危うさを感じる夕方と夜の境界線。
そんな怪しい雰囲気が立ち込める弓道場で、私は組み敷いた男を悠然と見下ろしていた。
「もう逃げられませんよ、直井先輩」
こういうシチュエーションでのお決まりの台詞。漫画やドラマで同じようなシーンを見かけるたびに、いやいやもっと他に何か言えることあるでしょ、と思っていたけれども。——なるほど。実際自分がその立場になってみると、確かにこの言葉しかないものだなと初めて気付く。一言一言噛み締めるように口にすると、優越感に心が満たされていくようで。興奮か緊張か、早鐘を打つ心臓がとても煩い……が、まあそれは直井先輩には聞こえていないはずだ。
今日主導権を握っているのは私。だから何も恐れることは無い。そう自分に言い聞かせる。
一方の直井先輩はというと、涼し気な眼差しを携えひどくゆったりとした雰囲気でこちらを眺めていた。
辺りの薄暗さのせいだろうか、直井先輩はいつもより妖艶な空気を纏っているような……。美形だということは勿論知っていたけれど、実際に間近で見てみると直井先輩が放つ雰囲気には凄まじいものがある。
自分より年下の女とはいえ、問答無用で床に押さえつけられているのだから少しは焦りを見せてもいいのではないかと思うのに、直井先輩は普段通りの余裕の表情で「へぇ……」とわざとらしい感嘆の声を上げた。
「俺、これからどうなんの?」
「分かりませんか?」
「分かんねぇな」
何をいまさら初心なことを。気の抜けるような返答に、思わずふふっと笑い声を漏らす。
直井先輩を抑えていた手を片方離して、全く日光に毒されていない透き通るような白肌にそっと指を滑らせると、直井先輩は朗らかに微笑んだ。
——なんともまあ、場違いな。予想外の反応に腹立たしさとトキメキが入り混じり心拍数が急上昇する。乙女心は複雑なのだ。だがしかし、この動揺を悟られるわけにはいかない。
「なら……今から分からせてあげますね」
私もまた満面の笑みを浮かべ、直井先輩の左胸をトンッと人差し指で指し示す。——ターゲットロックオン。
「先輩、お命頂戴致します……!」
——そこのあなた、私と静電気を感じてみませんか?(訳:あなたと手を繋ぎたいです)