ホワイドデー♡ミニ・エピソード 手嶋丈一郎

黒いクーペに乗ったカレシ、さっそうとあらわる

仕事を終え、勤め先を出ると街には既に春が近付いていた。
まだ朝は冷えるが、この時間帯なら薄手のコートでこと足りる。
これまで灰色だった街に並木の若芽が彩りのアクセントを添え、そこかしこで蕾が膨らみはじめている。立ち止まって見上げると春の訪れを告げるように、もう花も咲き始めている。

こんな日にはあの人とデートがしたいな♡
そんなことを考えた瞬間、脳裏をよぎる彼の優しい笑顔に胸がじんわりと温かくなり、帰宅する足がいつもよりも弾んだ。胸に抱えた温かさを愛おしむように急ぎ足で駅に向かう最中、見慣れた優雅なフォルムの黒いクーペが停まっているのを見つける。

刹那、女性たちの誰もが一瞬視線をそそぐようなハンサムな長身男性が運転席から降りてきた。
「お疲れさま!迎えに来ちゃった♡」

照れ臭そうに笑う彼を目にして、さっきまで胸に大切に抱えていた温かさが、一気に熱くほとばしるような何かに変わるのを感じつつ、私の表情は嬉しさにほころぶ。
「どうしたの?迎えに来るなんて言ってなかったよね…?」

そう尋ねると、うっすらと耳を赤らめた彼が、後ろ手に持っていたものを渡してきた。シックなデザインの箱に巻かれたリボンが彼らしい大人びた印象を受ける。
「サプライズ♪今日はホワイトデーだから…♡良かったら開けてみて?」

以前から欲しかった小ぶりのバッグ♪
彼のことだ、私が雑誌でチェックしてたのを注意深く見ていたのだろう。幸せと嬉しさに満ち足りた表情で顔を上げると、先程までの照れたような表情からいつも通りの優しく包み込む様な微笑に変わっていた。
「さぁ、帰ろうか。夕飯は俺が用意するよ、期待してて♪」

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このエピソードはイケカレワールドに無数に存在するマルチバース(世界線)の中の一つで起きた彼女とカレシとのミニエピソードです
チャット本編とは別の世界の出来事だとご理解ください