美女と野獣 イントロダクション

イントロダクション

むかし、とても大金持ちの父親がいました。父親は手広く商売を営み、息子三人、娘三人の六人の子がいました。この父親は教育熱心で、子供たちにはどんなお稽古にもみんな先生をつけて勉強させました。娘たちはみんな、なかなかの美人でした。が、とくに末娘はほれぼれとみとれるほどの美しさでした。そこでみんな、子供のころから、この娘を呼ぶには「きれいなお嬢ちゃん(ベル・アンファン)」という名前以外の呼びかたをしないくらいでした。いつまでたっても妹がベルと呼ばれるのが、姉さんたちのたいへんなやきもちの種になるのでした。

この末娘は姉さんたちよりも美人でそのうえ、二人よりずっと性格のよい娘でした。姉さんたち二人はとても高慢で、いつも貴婦人気取りだったので、自分たちのお友だちも身分の高い人たちでなければ満足しませんでした。毎日ダンスパーティや、お芝居や、散歩に出かけて、一日の大半の時間を本を読んで過ごしている末の妹をバカにしていました。

この娘たちがたいへんな金持ちだということはみんなに知られていたので、たくさんの人たちが、娘たちに結婚を申し込んできました。でも二人の姉さんのほうは、公爵か、せめて伯爵ぐらいの結婚相手でないとお嫁にはいかない、などと答えていました。ベルは自分と結婚したい、という人たちにていねいにお礼を言いましたが、でも彼女は、自分はまだちょっと若すぎるし、それにもう何年かお父さんといっしょに暮らしたいので、と答えていました。

そんなある時、突然、大量に買い付けた外国からの積み荷を積んだ船団が嵐に遭遇して、父親は財産を失って、手に残ったものはといえば、町からずっと離れた小さな別荘だけになりました。父親は子供たちに向かって、家族はみんなその家に行かなければならないし、農家のように働かなければ生活することはできないだろうと、涙ながらに話しました。

周囲の人は誰ひとりとして、二人の姉娘をかわいそうだとは思いませんでした、それというのも、二人ともあまりにも横柄なので、みんなに嫌われていたからです。けれども、ベルがこんな不幸に見舞われたことには、みんなが憤慨していました、つまりみんな、それほどベルが気立てがよく、優しくてりっぱな娘だと思っていたわけです。それどころか、ベルが一文なしになってしまったというのに、ベルをお嫁にほしいという貴族さえ、何人かでてくる始末でした。ところがベルは、その人たちに、あたくしはあの哀れなお父さまを見捨てようという気持にはどうしてもなりません、それにお父さまといっしょに田舎までついていって、慰めてあげたり、仕事のお手伝いをしたいのです、といって断わりました。

田舎の家へ着くと、父親と三人の息子たちは、いっしょうけんめいに畑を耕しました。ベルは朝の四時から起き出して、大急ぎで家じゅうの掃除をし、家族の昼食を作りました。仕事がすんでしまうと、ベルは読書をしたり、クラヴサン〔古いかたちのピアノ〕を弾いたり、あるいはまた糸を紡ぎながら歌を歌ったりして過ごしました。二人の姉さんたちは、あべこべに、退屈で退屈で死にそうでした。二人は朝の十時にようやく起き、一日じゅうブラブラ歩いてみたり、むかしのきれいな洋服や、お友だちのことをなつかしんで気晴らしをしておりました。二人はよくこんなことを話しました。
「ネエ、妹をごらんなさいよ。あの子の心ったら、ほんとにお下劣で、鈍いんだから、こんな不幸な境遇になっても、平気なのね」お人好しの父親は、二人の姉娘のような考えかたをしませんでした。父親はベルのりっぱな心がけ、とりわけベルの辛抱強さには敬服しておりました。というのは、二人の姉さんは、平気でベルに家じゅうの仕事を任せっきりにしているだけでは満足しないで、年がら年じゅうベルに恥をかかせたりしていたからです。

父親が一通の手紙を受け取ったのは、この家族がこの人里離れた田舎へ住むようになってから一年ほどたった頃
その手紙の内容とは…(本編に続く)