Story1:
現れたのは誰の彼女?

Story1:「現れたのは誰の彼女?」

深いワインレッドが繊細なディテールを表現するマホガニーの机や椅子。使い込まれていながらも、手入れの行き届いた調理器具やワイングラス。外からは明るい日差しが差し込んでいるが、決して眩しくはない。差し込む光はまるで天使のはしご~Angel’s Ladder~さながら。ゲストたちの話し声は、静かに流れるスタンダードナンバーと同化している。
昼下がりのレストランで、青年二人が食事を楽しんでいる。二人は全く違うテイストの服を着ていて、一見共通点が見当たらない。だからこそ仲がいいのだろうか。

この前のライブ、とても盛り上がったんだよ。動員も順調だし、今ちょっとアガってきた感じなんだよ。一輝も見に来いよ。最近仲がいいあの子とかどうなのさ

ひときわ目を引く紫の髪、細身、容姿端麗。ただ、一見つかみどころのない雰囲気がするバンドマン、瀬名樹が語りかける。

ああ、まだちゃんと想いを伝えたわけじゃないけどな。でも、誘ってみてもいいかもな。

話しかけられたのは樹の親友、本城一輝。自信に満ちたオーラを発する外科医で、本城総合病院の跡取り息子でもある。二人はなんでも話し合える、いわゆる親友だった。

一輝、今度はちょっと本気っぽいねぇ

イタズラ好きな猫を彷彿とさせる笑みを浮かべながら本城を応援する瀬名。

今回は自分で選んだ相手だからね。親が選んだフィアンセなんか、まっぴらごめんだよ

―カシャン♪―

扉が開く。まだ少年の面影を残す桐生双葉がパーカー姿で入ってくる。キュートな面持ちには、若干の陰りがのぞく。

あっ……アニキ。…ここにいたのか。樹さん、お久しぶりです。
……ああ。

双葉は本城の異母弟で、母方の姓を名乗っている。名は体を表すというが、その名前には兄への対抗心が込められているのかもしれない。
両者に漂う空気を知ってか知らずか、場の雰囲気を和ませる瀬名の一言。

よぉ、双葉くん今、アニキを借りてるよ。
今日は一人なのか?

瀬名に続くように声をかける本城。双葉のことを決して悪く思っているわけではない。しかし、双葉からは微妙な心の屈折を感じる。本城には双葉のことをどう扱っていいか分からない、という表現が妥当だろう。

涼さんのランチを食べながら勉強。
そうか、頑張れよ。

双葉は医者になるつもりは全くない。むろん優秀な兄を尊敬している。一方で、兄や本城家とは違う形で自分を確立したいと願っている。
生い立ちにまつわる複雑な陰影と確執。非凡ながらも強い承認欲求を持つ双葉。青春の道すがら、もがいている最中でもある。

頑張れよ、少年
樹さん(笑)俺もう二十歳になったよ。子供あつかいしないでっ!

瀬名は一見軽そうに見える。が、思慮深さを備え、相手の気持ちを読むことに長けている。彼はうまく人の心をほぐすことができた、それも自然に。

おお、そうだっけ、頑張れ、若者!
ありがとう、樹さん

双葉が離れたところに座る。店内に流れるナンバーはいつの間にか明るい曲調へ。小気味いいリズムが会話にもグルーヴを持たせる。

いらっしゃい、双葉くん
こんにちは!ランチコースをお願いします。

話しかけてきたのはオーナーシェフ、佐倉涼。天賦の才に恵まれ、若くして店は二つ星の称号を得ている。クールな印象だが、人を惹きつける魅力を持つ。本城や双葉、瀬名と気さくに話し合える間柄でもある。

コースだね、了解。相変わらず、アニキとは微妙なのかい
微妙…かぁ、なんでかなぁ、優秀な兄を持つとどうしてもね。

憂鬱そうに答える双葉に対して、冗談めかして返す佐倉。

双葉くんは双葉くんでいいじゃないか。アニキより先に彼女作っちゃうとかね
それはちょっといいかも!今、イイ感じの人いるからさ。

いたずらっぽく笑いながらメニューを佐倉に返す。 優秀な兄に一泡吹かせる場面を想像しながら、厨房に戻る佐倉を見送る。

―カシャン♪―

扉が開き、そこに立つ一人のきれいな女性……

来ちゃった。


(本ストーリーはアナザーワールドでのカレシたちの紹介のために制作されており、イケカレの本編チャットワールドのカレシとは直接の関係はございません)